卒業論文の要旨

論題の一覧は、ゼミ紹介のページにあります


6期生(2022年度卒業生)

カウンターカルチャーとしてみるSEKAI NO OWARI──『Tarkus』(2018年)の内容分析をもとに

 アーティストは楽曲やライブ演出にどのような想いを込めているのか。SEKAI NO OWARI というバンドは日本の数あるバンドの中でも特殊な要素を持つ。彼らは日本の音 楽業界のカウンターカルチャー的な存在である。SEKAI NO OWARI はどのようなメッセ ージを人々に伝えようとしているのか。
 本稿では、2017 年に行われた SEKAI NO OWARI のライブツアータルカスを映像化し た『Tarkus』(2018)の演出と楽曲の内容分析を実施した。調査内容の整理は大きく3つの 要素にわけて行った。
 今回の研究から SEKAI NO OWARI は『Tarkus』を通して、自分の感情や多数の意見に のまれて自分の正義を押し通してしまう前に、一度立ち止まって目の前のことを多面的に 考えてみてほしいというメッセージを伝えようとしていることがわかった。そして SEKAI NO OWARI はカウンターカルチャーの要素を持っていることもわかった。『Tarkus』以外 の作品にも「タルカス」と類似する内容が見られることから、今回得られた内容は SEKAI NO OWARI が強く伝えたいメッセージの一つであると考えられる。

『熱闘甲子園』が伝える高校野球──2018年の大阪桐蔭高校と済美高校に着目して

 高校野球といえば「青春」や「感動」 、というイメージが作り上げられてきた背景にはメディアが大きく関わっている。本稿は、近年の高校野球がメディアによってどのように伝えられているのかについて、スポーツダイジェスト番組『熱闘甲子園』を分析対象とし、考察を行った。
 その結果、『熱闘甲子園』は選手たちの友情、成長といった面を感動的なものとして伝えていることが分かった。高校ごとにテーマを設定し、外部から見ただけでは分からないバックグラウンドを試合のハイライトと共に紹介することで感動が演出されていた。また、 専門用語で難しく解説するのではなく、「青春」「感動」 を通して高校野球を身近に感じてもらい、多くの高校が応援してもらえるようにする役割を果たしているのではないかと考えられる。

Representing Diversity in Superhero Films: A Case Study of Black Widow in the Marvel Cinematic Universe(スーパーヒーロー映画に表象される多様性──マーベル・シネマティック・ユニバース作品におけるブラック・ウィドウを事例に)

Several attempts to express diversity in modern superhero films notwithstanding, most of themstill embrace discrimination and limited portrayals of minorities regardless of whether these characters are main or marginal as reflecting actual society. In addition, even when we study
minorities in media content, we have tended to only focus on a single identity. This study sets out to discuss the representation of multiple minorities, who belong to more than one minority group, by analyzing how diversity is depicted through the case study of a Russian female superhero Black Widow in the eight MCU films from Iron Man2 (2010) to Black Widow (2021).
 The results show that the combination of female and Russian stereotypes builds up the marginality of the character. Especially the previous character makes the major characters more prominent and satisfies the desires of the audience by the excessive use of classic negative stereotypes. However, Natasha transformed into a main character with independence in Black Widow.
 On the other hand, problems involving the intricate portrayals of multiple minorities arise in recent films. Stereotypes of females and Russians are occasionally veiled by each other and the excessively perfect character might oblige a vast number of ordinal people to blame themselves. These complexities should not be avoided to represent radical diversity.
 In order to depict diversity, it is essential to represent minorities neutrally by removing negative stereotypes thoroughly and digging into the characters’ identities. The minority characters striving against hardships not only evoke the audience’s sympathy but also empower people suffering in actual society.

「乃木坂らしさ」とは何か──乃木坂46「きっかけ」(2016年)の楽曲・パフォーマンス分析

 乃木坂 46 のファンになると「乃木坂らしさ」という言葉をよく耳にする。これは乃木坂 46 の魅力を表す言葉として度々用いられているが、その正体をはっきりと言及することは多くはなかった。この「乃木坂らしさ」を知ることが出来れば、乃木坂 46 の本質的な魅力を明らかにすることが出来るのではないだろうか。
 本稿では、乃木坂 46 の「きっかけ」(2016 年)の歌詞分析とライブパフォーマンス分析を行い、「乃木坂らしさ」とは何か、そして楽曲やパフォーマンスにおいてどのように表現されているのかについて研究した。その結果、 「乃木坂らしさ」とは乃木坂 46 として活動していく中で乃木坂 46 メンバーの中に生まれるグループへの愛着やメンバーへの慈しみといった乃木坂 46 への愛情にも似た思いであることが分かった。そして、「乃木坂らしさ」であるその思いがメンバー間に内在していると共に、乃木坂 46 メンバーの主体的な自己表現のきっかけとなっていることが表現されていた。この「乃木坂らしさ」というアイドルグループとしてのアイデンティティの形は今日の女性アイドルシーンにおける新たなアイドル像であるといえる。

メディアにおけるロイヤル・ファミリー──『グレース・オブ・モナコ:公妃の切り札』(2014年)の内容分析から

 誰しもが王族に対して、おとぎ話の主人公のように華やかで幸せな生活を送っているというイメージを多少なりとも持っているのではないだろうか。私たちの日常から離れた存在である王族のイメージはメディアの影響を強く受けている。では王族はメディアにどのように取り上げられイメージ化されているのだろうか。
 本稿では映画『グレース・オブ・モナコ:公妃の切り札』(2014)をルーツ、周囲の目、葛藤、フェアリーテイルの 4 つの観点に内容分析を実施した。その結果、 メディアにおいて王族はおとぎ話の世界ではなく、現実世界に生きる 1 人の人として憧れや理想の存在として表象されていることが明らかになった。 映画の中にはディズニープリンセスのように、 モナコ公妃のグレース・ケリーが愛の力を用いて困難を乗り越え成功を掴むシーンもあったが、彼女のルーツや周囲の人との関係性に悩み苦しむ姿がより強調されていた。グレースの葛藤や自ら努力して困難に立ち向かう姿が現実世界に生きる私たちと重なり、憧れや尊敬の対象になっていると考えられる。

マイナースポーツの普及──チアダンス/チアリーディングは女性だけのスポーツなのか

 日本ではチアダンス/チアリーディングというスポーツがマイナースポーツとして認識されている。また、チアガールという言葉が浸透していたようにチアダンス/チアリーデ
ィングは女性がするものであるというジェンダー・イメージがある。そこで、本稿では実在する男子チアリーディングチーム SHOCKERS をモデルにした映画『チア男子!!』(2019)の内容分析を通して、社会におけるジェンダー・イメージやスポーツにおけるジェンダー差に着目し、チアダンス/チアリーディングは女性だけのスポーツなのかについて研究を行った。
 その結果、社会が作り出すジェンダー・イメージによってチアダンス/チアリーディングを男性がすることに抵抗や違和感があった。しかし、 マイノリティの立場でも諦めずに頑張る姿から人びとの心を動かした。ジェンダー・イメージの変化によって女性だけではなく男女共に楽しみ、 憧れるスポーツへと変化していると考えられる。 男女共にチアリーダーが憧れの対象となり、男性チアリーダーという存在が当たり前になるのも近い将来のことかもしれない。

星野源のイエローミュージックにおける独自性──「恋」(2016年)の楽曲・言説分析から

 音楽家、俳優、文筆家とさまざまな側面を持ち、マルチに活躍している星野源はある一つの音楽を独自で作り上げ、それを「イエローミュージック」と名付けた。星野はこの音楽について 『TVBros.』は「誰よりも自分がワクワクして踊り出したくなる、それでいてまだ世の中に存在していない塩梅の音楽」と表現している。では、イエローミュージックにしかみられない音楽とは一体どういったものなのだろうか。
 本稿では、星野源が提唱しているイエローミュージックの独自性について、2016 年リリースの楽曲「恋」を事例に、当時の星野のインタビュー記事を使った言説分析と楽曲分析を用いて研究した。その結果、 イエローミュージックは現代の日本の社会情勢も踏まえつつ、黄色人種の「イエロー」 らしさと日本人らしさを兼ね備え、 さらに星野の遊び心から来る独特の音楽実践が取り入れられた新しい音楽であることが明らかとなった。
 どの音楽家においても、 ただ音楽を作り発信することは普通のことのように思える。しかし、星野は自分の音楽を発信するために新しい音楽の形式を生み出した。このような一般的には行われないであろうイエローミュージックという名の試みと独自の音楽実践があるからこそ、 星野の音楽は多くの人に支持され、 数多くのヒット曲を生み出す要因につながっているのではないかと考える。

お笑い第七世代は何を「笑い」にしているのか──霜降り明星の漫才を例に

 お笑い第七世代とは何者なのか。彼らは 2010 年代にデビューし、現代のお笑いを支え ている若手芸人だ。お笑いに「優しさ」が求められる時代、お笑い第七世代は何を笑いに しているのだろうか。そして、彼らの笑いは「優しさの笑い」といえるのだろうか。
 本稿では、お笑い第七世代の代表として霜降り明星を研究対象にした。その上で、彼ら の漫才「豪華客船」「子どもの頃」の笑いのポイントを抽出し、内容分析を行った。分析 には U-NEXT(動画配信サービス)より配信されている『M-1 グランプリ 2018』を資料 として用いた。その結果、霜降り明星の漫才では、比喩や地口などを用いた言葉の笑いを 中心に動作の笑い、設定の笑いが提供されていることが明らかになった。そして、その笑 いは中傷やイジリが削減された「優しさの笑い」であることがわかった。
霜降り明星をはじめ、お笑い第七世代は時代に求められている笑いを理解し、「優し さ」を柔軟に取り入れて、笑いを表現しているのだと考えられる。

ライトノベルにおける人物描写について──『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(2015年)を用いて

 あなたはライトノベルを読んだことがあるだろうか。ライトノベルとは、青年期の読者を 想定して書かれており、作中人物がキャラクターとして造形されている小説である。近年で は、出版業界の市場縮小に伴い売上は減少傾向にあるが、コミックスとともに業界を支えて いるジャンルの一つである。
 本稿では、著者暁佳奈によるライトノベル『ヴァイオレット・エヴァーガーデン(上)』 (2015 年)と『ヴァイオレット・エヴァーガーデン(下)』(2016 年)の二冊の内容分析を 通して、ライトノベルにおける人物の描かれ方について研究した。内容分析では特に、主人 公ヴァイオレットの容姿、行動、セリフ、感情に関する描写について調査を行った。その結 果、ライトノベルは多様な要素を設定として登場人物に組み込み、それらを消費することで 物語を展開している。つまり、人物に組み込まれた設定を消費することやそれ自体を表現す ることがライトノベルにおいて人物を描写する際に重要な要素の一つになっていることが わかった。

グルーヴとは何か──インタビュー調査からみる音楽とグルーヴの関係性

 現在、音楽シーンにおいて「グルーヴ」という言葉を耳にすることがある。しかし、この「グルーヴ」という言葉は決まった定義がなく、音楽シーンのみならず日常的にも様々な意味で使われることがある。本稿では、 ライブ・エンタテインメントにおける受け手と創り手に観点を置き、果たしてグルーヴとは何なのか?グルーヴと音楽にはどのような関係性があるのかを考察した。第 1 章での、 受け手の在り方、 受け手の音楽の楽しみ方の先行研究を踏まえ第 2 章では、4 名の創り手を対象にインタビュー調査を行い、やりがいや、 音楽活動を行うにあたって音響や雰囲気等の外的要因がどのような影響を与えるかを明らかにした。
 その結果、受け手と創り手は音楽を楽しむにあたって、何かを目的としており、そのお互いの目的が一致し、達成されることでやりがいや満足度を得られ、 グルーヴの構成要素になることが明らかになった。

隠された男性問題──Amazon Prime Video版『シンデレラ』(2021年)の内容分析より

 なぜジェンダー問題という言葉から 「男性問題」 を連想する人は少ないのだろうか。そもそも 「男性問題」とは何かを知らない人も多いのではないだろうか。 男性自身は自分たちの抱える問題に気づくことができないのである。
 では現代に、どのような「男性問題」が隠されているのだろうか。
 本稿では、Amazon Prime Video 版『シンデレラ』 (吹替版)(2021 年)に登場する三人の男性キャラクターのセリフ、衣装、ダンス、恋愛対象に注目し、それぞれがどのような男性性を持っているか、 そしてどのような男性性が 「異常」であるかを明らかにするため内容分析を行った。
 その結果、 ファビュラス・ゴッドマザーのように「従属的男性性」を持つ男性の中でも、同性愛男性が「異常」視されうることがわかった。男性と女性、そして男性と男性の間には、様々なことが複雑に絡み合っている。だからこそ簡単に「従属的男性性」とその一つである同性愛男性に対する差別を取り除くことができない。これこそが現代に隠されている男性問題である。

ユーザー側からみるコンテンツ利用ガイドラインの機能──『アイドリッシュセブン』の二次創作に着目して

 漫画やアニメなどの原作の設定を借りて創作を行う「二次創作」というファン活動には、 ファンコミュニティ内で作られる暗黙のルールが存在する。しかし、2022 年現在デジタル コンテンツを中心に原作側がガイドラインを提示することがある。ファン活動の規範やル ールが明文化されることで、ファンはどのような影響を受けるのだろうか。
 本稿では『アイドリッシュセブン』の二次創作に従事している、または従事していた 10 名にインタビュー調査を行い、コンテンツ利用ガイドラインの機能について研究した。その 結果、二次創作歴が長い人ほどガイドラインに対してネガティブな印象も持ち合わせてい るが、新しくそのコンテンツで二次創作を始める人にとってのガイドラインは指針を示す ありがたいものだという認識があることが明らかになった。また、ガイドラインの監視はユ ーザー同士で行われ、他のユーザーからの攻撃を回避するためにガイドラインを遵守する ユーザーが多いことがわかった。ガイドラインがユーザー間のトラブルを防ぐ機能も持つ ことで、快適なファン活動を行う指針になると考えられる。


5期生(2021年度卒業生)

「同担拒否」がジャニーズファンのコミュニティに及ぼす影響──King&PrinceとSixTONESファンへのインタビュー調査より

 同じアイドルを応援するファンとは交流を持たないことを指す「同担拒否」という言葉は、 ジャニーズ界隈では大きな疑問を持たれることなく使われ続けている。そこにはジャニー ズファンのコミュニティ内において「同担拒否」が必要とされる何らかの理由があるからな のではないか。
 本稿では、自ら King&Prince(キングアンドプリンス)または SixTONES(ストーンズ) ファンと公言しているジャニーズファン 13 名にインタビュー調査をし、「同担拒否」の存 在がファンコミュニティに及ぼしている影響や「同担拒否」の必要性について研究した。
 その結果、同担拒否をしていないジャニーズファンにとって同担拒否をしているジャニ ーズファンは交流しにくい対象になってしまうことが明らかになった。しかし、オタク活動 の中では同担拒否をしていないジャニーズファンも、ライブでは自担からのファンサービ スを貰える可能性が高くなるため、無意識に「同担拒否」をする傾向があるのだ。このよう に時と場合によって異なるファンコミュニティの中で良好な友人関係を保ちながら、快適 にアイドルの応援活動を行うために「同担拒否」が存在しているのである。

現代の強い女性──『マレフィセント』(2014)におけるマレフィセントを事例に

 世界中に影響を及ぼすディズニー映画は、どの作品もメッセージ性が強く、社会問題を 取り上げている。本稿では、童話を原作にして制作された長編アニメーション映画『眠れる森の美女』(1959) と実写で主人公やストーリーを変えてリメイクされた映画『マレフィセント』(2014)に登 場する主人公のマレフィセントに着目し初期作品と比べ強い女性が表れている場面 を抜き 出し内容分析を行った。
 調査にはウォルト・ディズニー・ジャパンから発売されている『マレフィセント』(字幕 版)(2014)を使用した。結果、1959 年に公開された映画『眠れる森の美女』ではマレフィ セントは呪いをかけたヴィランとして描かれ、オーロラ姫は王子と真実の愛 を見つける。 だが、2014 年に公開された映画『マレフィセント』では主人公のマレフィセントは心優し い妖精として描かれ、真実の愛はマレフィセントとオーロラ姫の間に生まれる。
 我々が生きる現代では男女平等がうたわれ、最近では女性も割合は明らかに少ないが 役 職に就き始めている。だが、ディズニー映画の世界ではジェンダーに対する固定概念が減 少し女性の立場が確立され、女性の社会進出に近づいていると考えられる。

現代女性の生きづらさ──コミック『欠けた月とドーナッツ』(2020~)の内容分析から

 私たちはそれぞれに「生きづらさ」を感じる場面がある。生きづらさとは前向きに生き ようとするとき邪魔になるものとして定義する。生きづらさは、仕事、恋愛、人間関係な ど様々な場面に現れる。
 本稿では、コミック『欠けた月とドーナッツ』(2020〜)の内容分析を通して、現代を 生きる女性が抱える生きづらさやその原因を調査した。その結果、主人公・宇野ひな子の 生きづらさは周囲と足並みを揃えること、自分の本音より周囲の評価を重視すること、自 分ではなく誰かの喜びのために恋愛をしていることなどが起因しており、行動軸が自分で はなく他者に置き換わっていることが生きづらさの要因になっていたことが分かった。生 きづらさに葛藤する一方で、ひな子は先輩 OL の生き方に感化され自分らしい生き方をし ようとする心境の変化が描かれていた。また、恋愛マンガとしての枠を超え同じ境遇にあ る女性たちにエールを送るようなメッセージ性の強さが特徴として見られた。

新しいご当地ソング──時代の最先端を走るヤバイTシャツ屋さん

 本稿は、ヤバイ T シャツ屋さんというアーティストの歌詞を新しいご当地ソングとして 分析していく。ヤバイ T シャツ屋さんとは、3 人組(こやまたくや、しばたありぼぼ、も りもりもと)の邦ロックバンドであり、大阪芸術大学にて 2012 年 5 月に結成された。歌 詞は関西弁で書かれていて、本人が大学時代に過ごした喜志駅や出身地の京都など、思い 出の地域や店が歌になっていることが特徴である。これらの曲を聴いたファンは、実際に その場所に足を運び、歌詞を思い浮かべながら聖地巡礼が行なわれたり、普段は意識しな いような場所でも、曲になることで意識されるようになるのだ。ヤバイ T シャツ屋さんは、 自分たちが学生時代に過ごした思い出をただ面白おかしく曲にしたかっただけであり、有名にしたいという気持ちで歌詞を書いていないが、必然的にコミュニティーが作られている。
 そこで、ご当地ソングとは何かということを見直すと同時に、1950 年から 1990 年代に かけてのご当地ソングと 2000 年代のご当地ソングの特徴とヤバイ T シャツ屋さんの歌詞 を比較した。その結果、新しいご当地ソングとしての特徴として、経済や環境に関係なく アーティストの自発的な試みが成熟し、変わっていくものを認めながらも思い出の場所を 曲にするなどのこだわりが見られた。さらに、リスナーの妄想で終わらせるだけでなく実 際に足を運び聖地巡礼をすることでリアルを実感させ、あまり有名ではないような地名を 歌詞に刻み、思い出の場所を拡大させているのである。

eスポーツ文化からみるテレビゲームのスポーツ化──スマブラSPオフライン大会『篝火』の勝者側準決勝を事例に

 近年よく聞く e スポーツという文化は何なのか。そこでは数々のプレイヤーが自身の努 力、技術をもってしのぎを削りあっている。しかし一方で、ゲームを用いた競技を「スポ ーツ」としていることに眉をひそめる者もいる。果たしてなぜだろうか。ゲームとスポー ツは交わらない文化なのか。
 本稿では、対人アクションゲームの『大乱闘スマッシュブラザーズ SP』のオフライン大 会における試合を用いて内容調査を実施し、先行研究を基にスポーツとの比較をした。そ の結果、移り変わるスポーツ像と e スポーツは強い関係があり、数々のスポーツ的要素を 持っていることが明らかになった。確かに最初は娯楽として登場したゲームだが、どの文 化でも時代とともに新しい要素を持つようになり、スポーツも例外ではない。e スポーツ はそんな変化した文化の形といえるだろう。

現代の若者のマンガ経験──『僕のヒーローアカデミア』読者へのライフストーリー・インタビューより

 近年、マンガアプリの増加などからマンガの需要の高まりがみられる。そんななか『僕 のヒーローアカデミア(以降、ヒロアカ)』は、2021 年夏に 3 作品目の映画が公開される など、高い人気を誇っている。ではそんなマンガの需要が高まりつつある現在において、 現代の若者はどのようなマンガ経験を形成しているのだろうか。
 本稿では、ヒロアカの 20 代の読者 7 人にライフストーリー・インタビュー調査を行っ た。今回の調査結果から、ヒロアカの読者はヒロアカに関するマンガ経験を自身のライフ ストーリーに一定の役割を持ったものとして形成していることがわかった 。他のマンガ作 品や今までのマンガ経験が、ヒロアカを解釈する上での重要な要素となっていることがわ かった。現代の若者の中でヒロアカに関するマンガ経験は、 ヒロアカを購読したというマ ンガ経験ではなく、『週刊少年ジャンプ』に掲載されている作品を購読したというマンガ経 験として存在していると考えられる。

高校野球における坊主撤廃──元高校球児に対するインタビュー調査より

 本稿は、時代と共に変化する高校野球の在り方について、坊主制度を事例に取り上げる。 旧日本軍のシステムを導入した指導者によって創られた高校野球は、集団主義、犠牲心、坊 主制度などが組み込まれるようになった。その中で今でも続くのは坊主制度だけである。メ ディアの影響から、高校球児の坊主が強くイメージされてきたが、現代は科学的で技術主義 の高校野球が主となったことにより、坊主に反対する若者が増えた。そんな坊主が、現代の 高校球児にどのような影響を及ぼしているのか、また科学的な野球が及ぼす坊主の必要性 について研究した。
 高校球児にとって坊主は、プレーに大きく関係することは無いが、我慢や忍耐力、教育的 価値を見いだすために必要である。しかし、技術やデータを優先させるスタイルには意味を 持たないが、高校を選ぶそれぞれの価値観で判断することができるため、科学的な高校野球 と、昔からの価値観が共存できるようになり、新たな高校野球が展開されていくだろう。

韓国アイドルが巻き起こす新しい女性像──2NE1「I AM THE BEST」(2011)とITZY「WANNABE」(2020)の比較調査

 「ガールクラッシュ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。近年の K-POP ア イドルを語る上で欠かせないキーワードの一つが「女が惚れる女」を意味する「ガー ルクラッシュ」である。2010 年代頃から始まり、現在韓国では数多くの「ガールクラ ッシュ」をコンセプトにしたアイドルが存在する。そんな「ガールクラッシュ」な女 性像も時代の変化とともに変わりつつあるのではないか。
 本稿では、2NE1 の「I AM THE BEST」(2011)と ITZY「WANNABE」の歌詞と MV の内容を分析し、比較する調査を行った。その結果、10 年前の韓国アイドルは女性の権利拡大を謳い、強気なビジュアル、フ レーズなど圧倒的なインパクトで女性を先導するような女性像を表現していた。一方 現代の韓国アイドルは、私達と同じように等身大の悩みを抱え、それでも自分を貫い て生きていこうとする共感性を与えるような、より身近な女性像へと変化しているこ とが分かった。そして共通点として、自己愛に溢れている点、自分を評価する基準は 自分であるという点があった。このような変化に伴い、現代の「ガールクラッシュ」は女性のみならず男性にも共 感を与えるようなものになってきているのではないかと考える。

演劇界の新ジャンル2.5次元ミュ―ジカルの可能性── 『ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」』(2015~2016)の内容調査から

 なぜ 2 次元を 3 次元化するのか、2.5 次元とは何なのか。 現在、漫画・アニメ・ゲーム等を原作とする 3 次元の舞台コンテンツである 2.5 次元ミ ュージカルは、メディアミックスを展開する中で流行しており、その勢いは後を絶たない。しかしながら、実際には 2 次元を舞台化(3 次元化)するということは賛否両論であり、 様々な理由から舞台化を受け入れられないという人も少なからずいる。
 本稿では、2.5 次元ミュージカルの本質を探るべく大人気作品である『ライブ・スペク タクル「NARUTO-ナルト-」』(2015~2016)を事例として取り上げ、舞台版とアニメ版 を比較する内容分析を実施した。この作品は日本を代表する忍者バトルアクション漫画 『NARUTO-ナルト-』をもとにした舞台化作品であり、国内にとどまらず海外にも進出を 遂げている。『ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」』を調査する中で、2.5 次元ミ ュージカルであるにもかかわらず、歌やダンスのようなミュージカル要素が意外にも少な いことが判明した。また、制作陣やキャスト陣による 2 次元を 3 次元化する表現の工夫が 伺えた。2 次元を 3 次元化する 2.5 次元ミュージカルは、多くの人々に舞台やアニメという文化 芸術の魅力を気づかせてくれるものである。従って、日本に限らず世界的な文化の 1 つと なるよう今後も支持されるべきだと考える。

新しい「体育会系」──女子学生に対するインタビュー調査より

 あなたは、体育会系女子学生に対してどのようなイメージを抱いているだろうか。大学に おいて、「体育会系」というカテゴリーに属する者は、マイノリティな存在に当たる。そし て、その集団に属する女子学生は、さらにマイノリティな存在である。女性の社会進出が進 む現代において、彼女たちはどのようなジェンダー観を持っているのだろうか。
 本稿では、現在大学の体育会系運動部に所属する女子学生を対象に、インタビュー調査を 実施した。ジェンダー観とその他の意識の関連性を分析することで、彼女たちが一体どのよ うなジェンダー観を持っているのか明らかにした。その結果、現代の体育会系女子学生は、 ジェンダー観において「隠された保守意識」を持っていることが明らかとなった。彼女たちのジェンダー観は、一見保守的ではないように見える。しかしながら、それは表 面上のみであり、彼女たちは無意識のうちにジェンダーの不平等性を受け入れてしまう可 能性を持ち合わせている。

回転寿司からみる新しい日本のセルフイメージ──かっぱ寿司とスシローのTVコマーシャルの内容調査から

 いつしか回転寿司では、酢飯に肉が乗っているものや寿司ネタにマヨネーズがかかって いるものなど、海外風の寿司で溢れるようになった。日本食を代表する寿司が日本らしくな くなるにつれて、私たち日本人の寿司に対するイメージはどのように変化し、それに伴って 形成された新しい日本のセルフイメージとはどのようなものなのだろうか。
 本稿ではかっぱ寿司とスシローの過去 20 年間に放送された TV コマーシャル、149 本を 使用して内容分析を実施した。その結果、日本だけのものだという認識の範囲が広がり、よ り多様性に寛容なものへと変化していることが明らかになった。 またその根底には日本の 伝統を重要視する姿勢があった。私たち日本人は伝統的な寿司との違いを受け入れながら も寿司が日本のものであることを大切にしているのだ。
 寿司はどんなに時代が変わろうと日本らしさを感じさせ続ける力を持っている 。そして 新しいセルフイメージは日本文化が今後も発展していくにあたって必要なものだと考えられる。

男性誌から読み解く女性のモテファッション
──『MEN’S NON-NO』の連載「モードとデート」(2018年)の内容調査から

 異性にモテるモテファッションという言葉を耳にすることがあるが、モテとはいったい 何のことを表すのか。またそのモテにみられる特徴や共通点はあるのだろうか。
 本稿では、男性ファッション誌である『MEN’S NON-NO』の「モードとデート」の2 年間の連載のうち初めの1年目の連載(2018 年)を比較研究の対象とし、ファッションの コーディネート、掲載文等を比較し異性から見たモテファッションについて考察した。結 果として、デートの服装のほうがモテファッションに近いと考えられる。デートに多く見 られる傾向として、シンプルで女の子らしさがあるファッション(スカートや薄めのメイ ク、ダボっとした服装)が挙げられる。また、モテとは清潔感やファッションバランス、 行く場所に合わせたコーディネートが組まれているという項目が当てはまるのではないか と考えた。今回の研究で従来のモテ要素であるミニスカートやピンク色のかわいらしいフ ァッションは見られずメンズライクやマニッシュという言葉が目立った。時代とともに移 り変わっていくファッションと共にモテの基準も変化していくのだと認識した。(462 文 字)

夢女子のアイデンティティ形成──当事者に対するフォーカスグループインタビュー調査から

 二次元キャラクターに対して好意を抱き、原作には登場しない自分自身またはオリジナルキャラクターを主軸にすえた物語を楽しむ「夢女子」という女性たちがいる。SNS の普及などにより、2021 年現在夢女子の数は徐々に増えているように感じる。し かし、その状況に反して世間での夢女子の認知度は低く、同じ二次元コンテンツを愛好す る者から批判の声に晒されることも少なくない。その中でなぜ彼女らは夢女子というアイ デンティティを選び取り、夢を見続けるのだろうか。
 本稿では、夢女子 13 名を 5 グループに分け、フォーカスグループインタビュー調査を 行った。その結果、夢女子の定義や活動内容は人により幅があるものの、彼女らの中には 共通した感覚が存在することが判明した。そして、夢創作が持つ現実への干渉性/不干渉 性と共有が困難だからこその狭く安定したコミュニティが特徴的であることがわかった。 夢女子以外の二次元コンテンツの楽しみ方や現実世界の恋愛では得ることのできない心地 よさが、彼女たちを夢女子にさせるのである。


4期生(2020年度卒業生)

多様化する正義観──『仮面ライダードライブ』(2014~2015年)を事例に

なぜ子どもから大人という幅広い世代が仮面ライダーシリーズに魅了されるのであろう か。幅広い世代を魅了し受け入れられている仮面ライダーシリーズでは、登場人物たちは どのような理由から戦い、彼らの正義観はどのように多様化しているのであろうか。
 本稿では、テレビドラマ『仮面ライダードライブ』(2014~2015 年)における登場人物 たちの作中での言動や行動に着目し内容分析を実施した。その結果、登場人物たちはかつ ての昭和の頃のように正義と悪という単純な理由から戦うのではなく、様々な理由があり 戦っていた。また、彼らの正義の考え方は皆異なっており、その正義観を貫き通すために 正義観が多様化し、その正義観は途中で変化すらもしていることが明らかになった。仮面 ライダーというテレビドラマシリーズはフィクションに過ぎない。しかし現代の時代背景 に応じて正義の考え方は一つではないというように描くことで、視聴者に正義の在り方に ついて考えさせて、より楽しませるという力を持っていると考えられる。

恋愛小説における女性像の変化──「図書館戦争」シリーズ(2006~2011年)を事例に

 私たちはなぜ恋愛⼩説を読むのだろうか。ストーリーが⾯⽩い、キャラクターに感情移 ⼊できるなどその理由は様々だろう。そんな時代を問わず⼥性たちに愛されている恋愛⼩ 説というジャンルが表現している⼥性像とはどのようなものだろうか。
 本稿では、「図書館戦争」シリーズが表現する⼥性像はどのようなものなのかを主⼈公 笠原郁のキャラクター分析から明らかにした。調査には、⾓川書店から出版されている⽂ 庫版「図書館戦争」シリーズを⽤いた。その結果、これまでの受動的な主⼈公とは違い、 能動的な⼥性が描かれていることが分かった。これは、かつての⼥性は家を守り、男性が 外で働くという価値観の変化を反映した結果であると考えられる。

心惹かれるダークヒーローの人物像──『憂国のモリアーティ』(2016年~)におけるウィリアム・ジェームズ・モリアーティを事例に

 近年、「闇」と「英雄」という一見反対の意味を併せ持つダークヒーローを主人公とした 作品が増えている。なぜ人々は正義だけでなく悪の側面を持ち合わせるダークヒーローに 心惹かれるのだろうか。
 本稿ではコミック『憂国のモリアーティ』(2016 年~)に登場するウィリアム・ジェーム ズ・モリアーティの行動や言動に着目し、先行研究をもとに内容分析を行った。その結果、 ダークヒーローは自身の目的のために悪を演じる存在であることがわかった。しかし、その 行動には義賊的な一面や自己犠牲を払ってまで目的を叶えようとする強い意志がみられた。 この特徴によって大衆はダークヒーローを悪とは決めつけられない。
 このような両義性から人々が「正義」と「悪」を自由にとらえることこそがダークヒーロ ーの魅力であると考えた。

日本におけるHIPHOPの反抗の形──BIM『The Beam』(2018年)の歌詞を事例に

 なぜ日本でヒップホップは人気を博しているのか。元々差別や偏見に対して反抗の意を 示す黒人文化として誕生したヒップホップが、同じ境遇とは言い難い日本において多くの リスナーを獲得している。そこでは日本独自の反抗の形が存在し、表現されているのでは ないか。
 本稿ではラッパーBIMのアルバム『The Beam』に収録されている二曲に着目し、歌詞 とサウンドを分析しながら先行研究と比較する調査を行った。
 その結果、日本のヒップホップには差別や偏見に対する反抗の形だけではなく、日常生 活で生じるような悩み、心の葛藤をユーモアを交えながらそしてゆったりとした聴きやす いサウンドを用いて反抗する独自の形が存在していることが分かった。
 もともと差別や偏見に対する反抗の形として生まれたヒップホップが、ユーモアを含ん だ独自の形へと変容を遂げたように、今後もヒップホップの形は多様化を続け、多くの人々 に支持されていくのではないかと考えられる。

音楽を「体験する」という価値──若者のレコードブームに関するインタビュー調査

 近年、サブスクリプション、通称サブスクと呼ばれる月額定額制の音楽サービスが登場し、 その利用が一般的になった。その一方で、ここ数年アナログ媒体であるレコードが急速に売 り上げを伸ばし、若者がその中核となっている。デジタル化が進む現代において、若者の間 でレコードブームが巻き起こっているのは何故だろうか。
 本稿では、レコードに親しむ若者 10 名に対しインタビューを行い、彼らがレコードのど のような点に惹かれているのか調査した。その内容に先行研究との比較も加え、現代だから こそ生まれるレコードの魅力、音楽を「体験する」という価値について考察した。その結果、 若者たちはレコードを通じ、音楽のみを楽しむだけでなく、レコードが流れるその空間を楽 しんでいることがわかった。加えて、自身の手中に音楽が存在するという感覚を得て所有欲 を満たしたり、他者と比較して自己陶酔に浸ったりする側面も見られた。若者たちはレコードを通じ音楽を「体験する」事で、現代において日常的な「浅い」消費ではなく、非日常感 を味わう「深い」消費を楽しみ、そこに価値を見出している。

ディズニー映画における女性像──アニメ版『アラジン』(1992年)と実写版『アラジン』(2019年)の比較分析

 「ディズニープリンセス」と聞いてあなたはどういう女性を想像するだろうか。ディズ ニープリンセスは『白雪姫』や『シンデレラ』、『塔の上のラプンツェル』や『アナと雪の 女王』など、数多くのプリンセスを生み出してきた。ディズニーのプリンセス作品はどの 時代でも絶大な人気を誇っており、近年ではたくさんのプリンセス映画の実写化もしている。しかし、物語の内容がそのまま実写化したというわけではなく、ディズニー側が現代 的な要素を加えたり、プリンセスの性格を変えたりなど、様々なアレンジが加えられてい るのだ。ディズニー映画の女性像は時代を経てどのように移り変わっているのだろうか。
 本稿ではディズニー映画のアニメ版『アラジン』(1992 年)と、実写版『アラジン』(2019 年)に登場するジャスミンの、作中での性格や行動を比較する内容分析を実施した。その 結果、アニメ版と実写版には多くの共通点が見られたが、より積極的かつ女性本来の強さ や賢さ、責任感の強さを感じられる女性に変化していることが明らかとなった。男は金と 権力・女は美貌といった、女性は美しければいいと祖母が生まれる前の時代から言われて きたが、現在は女性も働く時代になり、女性が宇宙飛行士や大統領にもなる時代になって きた。ディズニーは時代に応じた女性像を描くことで、多くの女性たちに影響を与え、ど んな状況や立場でも一歩を踏み出す勇気や行動力を後押ししてくれる力を持っていると考 えられる。

学生FD活動が日本の高等学校教育にあたえる影響──名城大学生を対象にしたフォーカスグループ調査を事例に

日本の大学では組織的に教員が授業内容や方法を改善し向上させることを目的とした活 動が行われている。また近年になると、従来の活動に加えて、学生が主体となって教員の授 業の改善を図る活動が行われるようになった。
 しかし、高校ではそのような生徒が主体となって高校の授業を改善しようという取り組 みがない。高校には生徒の主体性を奪うような特性があるのだろうか。
 本稿では、教職課程を履修した経験がある名城大学生を対象にしたフォーカスグループ 調査を行い、あらかじめテーマを想定して、生徒の「主体的な学び」を妨げているのは何か、 学生が主体となって教育の改善をする活動を高校に取り入れた場合、日本の高等学校教育 にどのような影響をあたえるのかという問いを明らかにした。
 その結果、大学受験を意識した教師の教科を「教える」という行為が、生徒自身の主体的 な学びを妨げることが分かった。また、高校における生徒主体の教育の改善活動は、教育に 関心のある生徒が高校にいることが前提となるため、教育に関心のない生徒が多い現在の 高校では、実施することは困難であると考えた。

スポーツ界におけるビデオ判定導入による審判員の存在意義──日本プロ野球のリクエスト制度を事例に

 本稿は、スポーツの審判員について日本のプロ野球を事例に取り上げる。元来人間 が審判員としてグラウンドないしはフィールド、ピッチ、コートに立って判定を下 し、その判定に選手たちが従うことでしかスポーツは成り立たなかった。しかし近年 多くのスポーツ界で導入されたビデオ判定によって一度下された判定がビデオ判定に よって覆るという従来では考えられない現象が起きるようになった。そんな AI が審判 員の立ち位置や権威を脅かしている現在においてもなお人間が判定することにはどん な意味やメリットがあるのか、なぜ人間が判定しなければいけないのか。AI が目覚ま しく発展を遂げたことによって問われる審判員の存在意義について研究した。
 人間が判定することに関して審判員個々でジャッジのやり方に違いがあることによ って創出されるエンターテイメント性やビデオ映像を見て最終的に判断するのも人間 であるからこそ生身の人間の存在意義は大きいのである。

吹き替え翻訳における口調や話し言葉が果たす役割──映画『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(2009年)の会話シーンの内容分析

 ファンタジー小説のハリー・ポッターシリーズは 1990 年代にイギリスの作家 J・K・ロ ーリングによって執筆され、人気作品として多くの言語で翻訳されている。日本でももち ろん人気作品として本も映画も幅広い年代から支持されている。では日本語で吹き替え翻訳されたキャラクター達が使用する言葉づかいや話し言葉はど のような役割を果たしているのだろうか。
 本稿では映画『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(2009 年)から 5 つの会話シーンと 8 人のキャラクターを取り上げて内容分析をした。調査には『Hulu』の日本語吹き替え版 を使用した。
 その結果、キャラクターたちは性別と年齢に応じて別の言葉を話していた。ハリー・ポ ッターとロン・ウィーズリーは思春期であり、心の不安定さや無意識な張り合いが言葉の 中で表現されていた。対して女性キャラクターが使用する言葉は相手に対しての主張や攻 撃、命令する役割を果たしていた。年齢による経年変化は分からなかったが、変化してい ることは明らかになった。

人々にとってのグリーンツーリズムの役割──愛知県豊田市香嵐渓のフィールドワーク調査を事例に

 なぜ、人々は旅行をするのだろうか。その中でも、なぜ自然を求めて出かけるのだろう か。現在再びキャンプや、グランピングなど自然を求め出かける人々が増え続けている。 また、公益財団法人 日本交通公社の 2020 年「1~2 年の間に行ってみたい国内旅行及び海 外旅行タイプ」でも「自然観光」が 1 番多い回答であった。そんな現代の日本で、自然に 訪れる人は、どのような目的で活用しているのか。またどのような効果を得ているのだろ うか。
 本稿では、愛知県豊田市香嵐渓でのフィールドワーク調査に加え、訪れている人、3 年 以内に訪れたことがある人計 11 名にインタビュー調査を行った。事前に用意した 12 項目 の質問を中心に、調査対象者には自由に回答してもらった。その結果、香嵐渓に訪れる人 は、「リフレッシュ」、「息抜き」、「楽しい」、「おいしい」といった魅力があるという。ただ、 それだけではなく、肉体的に疲労がかかる取り組みを達成した先にある景色や空気などの 自然特有の魅力や食事を味わうことで喜びを得ていることがわかった。また、これは年代 に関係なく当てはまることでもあった。そして、提供する側も負担がある中でも地域を盛 り上げ自信獲得につながっていると考える。以上のことから、人々にとってのグリーンツ ーリズムの役割は、季節を感じながら心や体の幸福を与える役割があるといえるだろう。

ハリウッド映画から見る日本像──『ワイルド・スピード X3 TOKYO DRIFT』(2006年)の内容分析

 海外の映画作品で日本の風景や日本人が登場した際、日本人視聴者から見ればそれらに 違和感を覚えるであろう描写が少なからず描かれている。
 本作では公開の『ワイルド・スピード X3 TOKYO DRIFT』(監督: ジャスティン・リ ン、2006 年)を題材にアメリカ映画に表象される日本像について取り上げる。古くから映 画に登場する日本人はアメリカ人と対立と友好関係を繰り返してきており、そこにはアメ リカ人が完全には理解しきれない日本人の精神構造や行動が時代によっては肯定的に、ま たは否定的に表現されている。それにより、日本人の特性を否定的に描くことでアメリカ 人の特性を肯定し、逆に日本人の特性を否定的に描くことでアメリカ人の特性を肯定する。
 この映画では日本人の描写がどちらかといえば否定的に表現されている。それらのイメ ージが無意識のうちに感受され、消費されていくことに問題があるが、それをどのように して受信するかどうかは視聴者の捉え方次第である。

ご当地アイドル活動によって形成される社会的アイデンティティ──知多娘。メンバーへのインタビューから

 ご当地アイドルは現在日本全国に広まるサブカルチャーとなっている。元々手の届かな い存在、偶像として存在していたアイドルであったが、近年出現したご当地アイドルは概念 を覆し、「地域」という特徴を持つことでよりファンや人々にとって近い存在となった。で は、各地でご当地アイドルとして活動している女性はその活動の中でどのような社会的ア イデンティティを形成しているのだろうか。 ちたむすめ
 本稿では、知多半島を拠点に活動する知多娘。のメンバー8 名を対象にインタビュー調査 を行った。今回の調査結果からご当地アイドル として活動するメンバーには①ご当地アイ ドルとしての自分 ②社会の一員としての自分 ③地域の一員としての自分 という 3 つの社 会的アイデンティティが形成されていることが明らかになった。ご当地アイドルとしての 自分や地域の一員としての自分など、他のアイドルとは異なるアイデンティティを持ち、そ れらこそがご当地アイドルをご当地アイドルたらしめる要素なのだと考えられる。

スポーツにおける人々の無意識的な人種観──日本競泳界でのインタビュー調査から

 現在ニュース番組などで度々人種差別の問題やそれに関する事件が取りざたされてい る。それらは日本ではなく海外の話題として扱われるが、今回は日本を舞台に人種の問題 について取り上げた。日本の中でもさらに若者、そして競泳の経験者に対象を絞り、日本 の若者はどのような人種観を持っているのかについて調査をした。
 本稿では、競泳を競技として経験したことのある 10 代から 20 代の男女 10 人を対象と し、インタビュー調査を行った。その結果、人々は特定の人種に共通するステレオタイプ を抱いていることが明らかになった。また、日本の若者は人種差別の問題に対する当事者 意識が低いということも今回の調査で浮き彫りになった。日本人の抱くステレオタイプは私たちが意識せずとも人種差別に繋がる可能性があり、 この問題は他人事ではない。すべての人が自分は当事者であるという意識を持つべきなの である。


3期生(2019年度卒業生)

音楽活動の多様化——DIYハードコアのミュージシャンへのインタビューを通して

 なぜインディーズ・ミュージシャンは DIY を実践するのか。彼らはレコード会社などの 大きな力に頼らずに自らの力でその活動を続けている。不便とも思える彼らのDIY 活動に は、どんな意義があり、また日本において一体どんな意味があるのだろうか。
 本稿では、名古屋において DIY 活動を実践する quiqui(キキ)と Clows Caw Loudly(クロウズ・カウ・ラウドリィ)の 2 組のハードコア・バンドにインタビューを行い、彼らの 音楽活動についてや現代のデジタル技術の発展、社会問題に対する考えなどを答えてもら った。彼らがなぜ DIY 活動に至り、それをどう活用しようとしているのかを明らかにした。インタビューの質問は彼らが音楽用リハーサルスタジオである FLAM で開催した自主企 画「six pack」で配布された小冊子である ZINE「six pack vol.1」の内容を元に作成した。 その結果、彼らは、「自分でやることに価値を見出す」という DIY の本来の目的を受け継 ぎながらも、それ以上の意味を見出している事がわかった。彼らは音楽活動での障害を乗 り越えるための手段として DIY を用いていた。また音楽活動を通して、彼等が残したい文 化を守ろうとする動きや社会問題に向き合おうとする意識の向上が見られた。
 DIY は単なる音楽活動だけではなく、彼らの生活に関わる信念や生き方のような機能を していると考えられる。

雑誌からみた「ファッションフード」の変化——『月刊KELLy』1990年代と2010年代の比較研究

 なぜ、私たちは食べ物の写真を撮ると SNS に投稿していくのだろうか。今、流行している食べ物は何が重要視され、人々は食べ物のどこに注目しているのだろうか。
 本稿では、名古屋を中心とした地域情報誌、『月刊 KELLy』の 1993 年 5 月号の「エリア スペシャル」と 2017 年 10 月号の「東海の町さんぽ案内」の 2 つを調査対象とし、写真、食べ物、言葉の表現から比較分析を行った。その結果、2017 年の雑誌ではアングルの種類 が増えており、撮影の際は食べ物だけではなく後ろの背景や小物も一緒に撮られていた。 食べ物は彩りが考えられており、動物の顔をした食べ物など可愛いものが多く、また言葉 の表現では見た目に関する表現が多くされていた。
 上記の調査結果から、食ベ物に対して気軽に関わることができるようになったことで SNS との関わりが強くなりさらにレジャー化が進行していった。一方で食が豊かになった 今、人々は体に良い食べ物を求めていることが読み取れた。これからも食はポップカルチャーの一つとして、多くの人々から求められていくだろう。

現代の男児向け特撮番組が表現する女性像——『仮面ライダーエグゼイド』(2016~17)を例に

 子どもであれば誰しもヒーローに憧れるものだ。仮面ライダーシリーズは令和の時代に入っても放送されており、子どもから大人まで幅広い支持を集めている。「男児向 け特撮番組」として広く受け入れられている仮面ライダーではどのような女性像が表現されているのか。
 本稿では、2016 年から 2017 年にかけてテレビ朝日系列で放送されていた『仮面ラ イダーエグゼイド』のヒロイン「ポッピーピポパポ」を研究対象とし、劇中でのヒロ インの行動傾向に着目して映像分析を行った。調査には 2017 年 2 月から 12 月にかけ て発売された DVD 版『仮面ライダーエグゼイド』と東映公式ストリーミングサイト 「東映特撮ファンクラブ」を用いた。その結果、ヒロインは変身能力の解放をしたも のの、「主人公のサポート」という枠からは脱却できていない事が分かった。しかし、 変身能力の解放によって問題の解決方法に幅を利かせていった。また、ヒロイン自らが考えた行動は結果的に「主人公のサポート」の延⻑線上でしかなかったが、その事も含めてヒロインはチームの「バランサー的存在」になったと考えられる。

新しい「おひとりさま」のイメージ——テレビドラマ『結婚しない』(2012)を事例に

 「おひとりさま」という言葉を聞くとどんなイメージが浮かぶだろうか。近年「おひとり さま」はイメージが変わってきているように感じる。
 本稿では、2012 年 10 月 11 日から 12 月 20 日までフジテレビ系列の木曜 10 時枠で放送されたテレビドラマ『結婚しない』に登場する二人の未婚女性を比較することで、2012 年 当時の結婚、独身に対する考え方からおひとりさまのイメージを明らかにした。
 調査では、『結婚しない』(全 11 話)に登場する、いつかは結婚したいと思っているのに 「結婚できない女」と仕事を選んだ結果「結婚しない」ことを選択したと思っている女の、それぞれの生き方や考え方、家族関係、働き方を調査対象とした。調査方法は『結婚しない』全 11 話の場面ごとにセリフを取り上げてゆき、2 人の女性の比較調査を行った。
 その結果、ドラマ『結婚しない』では、仕事にやりがいを見つけて楽しい人生を送る春子のポジティブなおひとりさまのイメージだけでなく、お見合い婚、家族・親戚からの独身に対してのプレッシャー、独身であることの罪悪感等、否定的なおひとりさまのイメージも 描かれており、2012 年はおひとりさまのイメージの変換期であることが分かった。

地元を飛び出すローカルアイドル——TEAM SHACHIを対象としたインタビュー調査を中心に

 なぜ今ローカルアイドルが日本で人気があるのか。日本で見逃せないサブカルチャーとしてアイドルがある。アイドル達が世相を表し昭和から平成、令和と変遷していくその時代の中で、一際目立ち人気を伸ばす存在であるローカルアイドルがいる。はじめは手の届かなかったアイドルがローカルな活動から、よりファンに近い存在になった。そんなローカルアイドルが地元から都市圏へ飛び出して活動をすることはなぜなのか。
 本稿ではTEAM SHACHIのメンバーである大黒柚姫を対象にインタビュー調査を行なった。その際マネージャーである松江まどかも同席した。今回の調査結果からローカ ルアイドルはその活動の幅を広げるために地元を大切にしながら、地元から飛び出して 活動をしている事が明らかになった。TEAM SHACHI の活動は地域性を持ち、地元で 活動をする。またその地元を大切にしつつ、都市圏では地元を広める活動をする。この 活動の仕方はローカルアイドルとしては新しく特徴的である。

日本のラッパーは自分の存在をどのように証明しているのか——ANARCHY『The KING』(2019)のリリック分析

 日本のラッパーは何を歌っているのか。黒人文化の 1 つであるラップは国境をこえて日 本でもポピュラーカルチャーとして受け入れられている。では、日本のラッパーは一体ラ ップを通して何を表現しているのか、またリスナーはラップの何処に魅力を感じているのだろうか。
 本稿では日本人ラッパーANARCHY のアルバム『The KING』の全 13 曲のうち 12 曲 と YouTube で公開されているPVとインタビューを使用し、それらを大きく 8 個のジャンルに分け歌詞分析を行った。
 その結果、ラッパーとは過去から現在まで自分自身の生活や自分の感情、人生そのもの を等身大で表現し自分の弱点をポジティブに歌い上げ、成り上がったカリスマ性も兼ね備 えるリアルな存在であることが分かった。
 また、リスナーは曲単体ではなくそのアーティストの個性やバックボーンなど取り繕っ ていない有りのままの人間自体に魅力を感じていると考えられる。

なぜ人々はロックフェスに集うのか——愛知県蒲郡市TREASURE05Xのフィールドワーク調査を事例に

 近年、日本各地でロックフェスティバル(以下、ロックフェス)が開催されている。 それらは、かつてのような熱狂的音楽ファンのためのイベントではなく、気軽に参加で きる夏のレジャーのひとつとして定着しつつある。人々はロックフェスにどのような魅力を感じて参加しているのだろうか。
 本稿では、愛知県蒲郡市で開催されるロックフェス「TREASURE05X(以下、トレジ ャー)」ラグーナビーチ公演でのフィールドワーク調査に加え、参加者 13 名に対しイ ンタビュー調査を行った。事前に用意した 9 項目の質問を中心に、調査対象者には自由 に回答してもらった。
 その結果、トレジャーの参加者はロックフェスの雰囲気を感じることが最大の参加目的であり、現場志向を強めていることがわかった。参加者はスタイルを押し付けられず にそれぞれがロックフェスを楽しみ、音楽がいたる所で鳴っている環境で、好きなことをすることができる「自由さ」が最大の魅力であると考えられる。

変容する若者ファッションとアイデンティティ——インタビュー調査から考えるストリートファッションの魅力

 現在、日本のファッション業界においてにおいて「トレンドがなくなってきている」、「流行を追わない事が流行である」ということが言われている。以前の日本は「~族」や「~系」 と言われる若者のファッション集団やチームが存在していた。彼らの主な目的は都市空間 において独自のコスチュームをまとい仲間や周囲から注目されることであった。だが、時代が進むにつれ、日本のストリートにおいてそのような集団や行為はなくなっていった。果たして今日、若者文化であるストリートファッションはどうなっているのだろうか。
 本稿では、自身の服装はストリートファッションであると答えた 11 人の若者にファッションに関するインタビュー調査をし、現代のストリートファッションの在り方や魅力につ いて聞いた。その結果、現代のストリートファッションの若者の多くは音楽アーティストか ら影響を受けている為、以前とは異なり街が背景となり新たなファッションが誕生すると いうことは少なくなった。また、ストリートファッションは時代と共に変化し、定義が無くなり大衆化してきていることがわかった。

現代社会における抵抗と逃走——走り屋を対象としたフィールドワークから

 走り屋とは何か。彼らは全国各地、夜な夜な車で爆音を捲し立てながら高速でスピードを出している。
 最近では車に対し興味が無い、運転免許すら持たないという人が増えていると聞く。 そんな現代の日本でマイノリティな存在である走り屋は何を思い活動しているのだろう。一体そこにはどのような目的を持って車を走らせているのだろう。
 本稿では現在、走り屋の活動をしている人々計 10 名に対し、インタビュー調査を行った。その結果、現代の走り屋は社会、ストレスから逃走する者、はじめは趣味として 活動していたが逃走に転じる者、ジェンダー的観点から抵抗の為に活動していた者がいた。また他にも自己顕示欲を満たすためにも活動している者、アイデンティティの形成 のために活動をする者など走り屋といっても多様な目的を持って活動する人々がいることが分かった。そして走り屋は個人 1 人 1 人にとって意義のあるポピュラーカルチ ャーであり、全く無駄なものではないと考えられる。

B’zが幅広い年代層に支持されている理由——アルバム『The 7th Blues』(1994)を分析して

 幅広い年代層に支持されているロックバンドはあまりいない。しかし、Bʼz は国⺠的ロックバンドと呼ばれ、人気を集めている。Bʼzが幅広い年代層に支持されている背景には、彼等の楽曲に何らかの理由があるからではないだろうか。
 本稿では、Bʼz のメンバーがインタビュー本の中で転換点となったと述べていたアルバム『The 7th Blues』(1994)と彼らのインタビュー本の内容分析を行なった。デビュー当初は、J-POP の理念を継承する事で多くのリスナーを獲得し、その後にロックの理念を継承する事で、日本で本物のロックを求めた人たちに支持された。さらに、アルバムがリリースされた当時の時代の少し先をいっている音楽であるオルタナティブロックの要素を見ることができた。また、楽曲を制作する上で、リスナーの音楽的キャパシティーを拡大しようという思いがあることが分かった。
 Bʼz は、J-POP からロックバンドへと変化し、時代の少し先の音楽の要素を取り入れることで、リスナーをの音楽的キャパシティーを拡大するバンドである。このようにして、 常に新しい形へと変化していることが、その時代毎の若者に支持されている理由なのでは ないだろうか。また、彼等の最新の楽曲を分析することで、次の時代で流行る楽曲の要素 までもが見えてくると考えられる。

伝承物語に現れる幽霊の役割の解明——日本昔話『産女の幽霊』とイギリス民話『ダウン・ハウスの宝物』の比較分析から

 なぜ幽霊は物語に現れ、私たちを怖がらせるのか。人々の生活の中から生まれ、人々 によって語り継がれてきた民話には幽霊が登場するものは少なくない。様々な地域で 様々な民話が語り継がれる中で、その一つとして残り続ける幽霊が持つ役割とはどのようなものであるか。
 本稿では日本昔話『産女の幽霊』の類話の一つである民話『ゆうれいにもらった力こぶ』(1978 年)と、イギリス民話『ダウン・ハウスの宝物』(1981 年)の登場人物の設定と物語の中での行動を比較する内容分析を実施した。調査には、それぞれが収録された民話集を用いた。その結果、これらの民話には物語の背景に2つの相違点があるが、幽霊や主人公の行動に9つの共通点があることが明らかになった。
 文字に残すより以前は口伝えで残されてきた民話に、幽霊が登場するものが少なくないことには人々の印象に深く残りその存在が伝えるメッセージが重要であったことが伺える。私たちは幽霊を恐怖の対象として恐れるだけでなく、民話に登場する幽霊を見つめ直すことで自身を見つめ直す機会を得ていると考えられる。

ファッション誌が読者に与える影響——『ViVi』を中心にみる女性誌の内容分析

 ファッション誌はなぜ長年の間、読者に愛されているのか。流行の流れが速いファッション業界において、ファッションの最先端を提案していく媒体の中でファッション誌という ものは代表的なものである。一度は目にしたことがある人が多いであろうファッション誌というものが、実際には読者にどのような影響を与えているのだろうか。
 本稿では、女性ファッション誌『ViVi』『JJ』『anan』の 3 誌を用いてファッション記事の中でライフスタイルに関わる箇所を抜き出し、内容分析を実施した。それから雑誌がどのように変化したかを調査した。その結果、3誌においてターゲット層に合わせた雑誌展開が為されていること、現代の社会現象に影響され、ファッション誌自体が変化してきていることが明らかになった。ファッション誌というものは読者と時代に合わせ常に変化し続けてい る。ファッション誌が読者を惹きつけるのではなく、読者の需要にファッション誌が応え、ファッション誌が成り立っている。互いに影響を与え合うファッション誌と私たち読者は、ファッション業界においてこれからも重要な関係であり続けると考えられる。

視聴者を惹きつける番組の作り方——『7.2新しい別の窓』(AbemaTV, 2018~)を事例に

 近年、若者を中心として地上波のテレビ番組を観る人が減少していると耳にする。いわゆる「テレビ離れ」である。その一方で、インターネットを利用した動画コンテンツに現代の視聴者は惹きつけられている。では、それらの動画コンテンツのどのような部分に私たち視 聴者が惹きつけられる理由があるのか。
 本稿では、この問いを明らかにするために、現在(2020 年 1 月時点)インターネットテ レビ局 AbemaTV にて放送されているバラエティ番組『7.2 新しい別の窓』(AbemaTV、 2018~)を調査対象として内容分析を実施した。調査方法は、出演者が SNS を利用している場面に着目し、彼らの発言や行動、表情などを記録するというものである。その結果、SNS を通じて視聴者が出演者とコミュニケーションをとることができ、番組に参加している感覚を強く得られることが惹きつけられる理由であると考えた。そして、このようなつながりから生まれる番組の魅力は、SNS が発達した現代ならではのものであると考えた。

「女々しい」ロックバンドの出現——My Hair is Badの歌詞分析

 現在、全国各地で多くのロックバンドが中心になりロックフェスティバルが開催されるなど、多くの若者が「ロックバンド」に熱狂している。そんな現代のロックバンドたちは何を歌っているのだろうか。私が目を付けたのは若者を中心に人気の My Hair is Bad である。なぜ「女々しさ」が魅力とされる My Hair is Bad に多くの若者が熱狂するのだろうか。
 本稿では、メジャーデビューアルバム『Woman’s』(2016 年)を使って歌詞分析を実施した。まずアルバム内 13 曲を 3 つのジャンルに分類した後、1 曲ずつ分析した。その結果、「女々しさ」を含め「弱い自分」を赤裸々に表した歌詞が多く、男女ともに「弱者/弱 者」として恋愛をする若者の姿が見いだせた。My Hair is Bad の音楽は、現代の「弱者」として生きる若者にとってそれを聴くことで弱い自分を認め、それにより「強く」なれる可能性を含むことが明らかになった。My Hair is Bad の音楽は、平成以降を生きる若者の心象を表した新時代のオルタナティブロックであるのだ。


2期生(2018年度卒業生)

恋愛における女性の強さ――アリアナ・グランデ『ザ・ベスト』(2017)の歌詞分析

 最近では、女性が男性を支えるという関係より、女性の社会進出など女性の活躍が期待されている。このことから、女性の以前の控え目で男性を支える女性というイメージが変化しているのではないだろうか。
 本稿では、アリアナ・グランデ『ザ・ベスト』のアリアナ・グランデ名義の楽曲(全16曲)を使用した。その中で女性と男性どちらが強く表されているかを分類し、その分類の中でもフレーズごとに表現の仕方を分けた。
 その結果、以前は女性の方が弱いという歌詞が多かったが、全16曲のうち女性の方が強いと表現されている歌詞の方が多かった。  男性に頼らず、自分の意見をしっかり持ち、自分の意思で自ら行動する女性の姿は、今までの女性らしさというよりかっこいい女性へと変化していると思われる。これが現在、そして今後の女性を映すものとなるだろう。

ゲームに対するイメージの変化――2000年代の朝日新聞を分析して

 なぜ、テレビゲームに対して、人々は悪いイメージを持っているのか。テレビゲームは現代において、様々な人によってプレイされている。「脳トレ」という学習ゲームの登場により、テレビゲームのイメージが変わり、良くなったのだろうか。
 本稿では、「脳トレ」発売の2005年を中心に2000年1月1日から2010年12月31日の期間で、「テレビゲーム」と「家庭」をキーワードとし、朝日新聞記事検索サービスを使用し、言説分析を行った。その結果、すべてのテレビゲームが一括りにされて記事に書かれているという一面もあったが、害のあるテレビゲーム、害のないテレビゲームについての線引きが曖昧で、メディアも慎重になっていることが明らかになった。2000年代にはテレビゲームに対するポジティブな記事が出てきており、テレビゲームのイメージは改善されていくのではないかと考えられる。

スポーツ観戦における「実況」の役割――全国高等学校野球選手権大会を例に

 なぜスポーツ中継には実況が付属するのか。私たちが普段何気なく見ているスポーツのテレビ中継には必ずと言ってよいほど実況が付いている。この「実況」とは一体何のために付属し、どのような役割を果たしているのだろうか。
 本稿では、2018年8月21日13時50分からNHK総合1・津で放送された、「第100回全国高等学校野球選手権大会決勝 金足農業高校対大阪桐蔭高校」の試合をブルーレイレコーダーで録画し、それを鑑賞してその試合の中継における実況の言説分析を実施した。その結果、プレーの説明でわかりやすさを提供することはもちろん、そこに様々な情報を挟み込んで「物語」と仕立て上げることで、その競技を知らない人たちにも親しみやすさやわかりやすさを提供する役割を果たしているということが明らかになった。単にプレーの説明を行うだけではなくストーリー性のあるものとして語ることが多くの人に興味や関心を与え、その競技の人気度にも影響を及ぼすということが考えられる。

日本教育の過去と現在――その中で起きる体罰の変化

 体罰を受けたことがあるか。あるいは、体罰が行われている現場に立ち会ったことがあるか。実際に中学生の時に体罰が行われている現場に立ち会った経験から体罰はあってはならないものだと感じた。過去の事例をもとに体罰の捉えられ方が、過去と現在でどのような変化があったのだろうか。
 本稿では、1979年から起きた戸塚ヨット・スクール事件をもとに30年間で体罰の捉えられ方にどのような変化があったかを、新聞記事で扱われている言葉の変化で分析した。その結果、1980年代では戸塚の行為が体罰か「しごき」か、と論じられているのに対して、1990年代では戸塚の行為が体罰なのか暴力なのか、それとも教育なのかという書かれ方に変化している。また、2002年の記事で体罰は単なる暴力だと認定され、体罰は教育でないとされるようになった。
 体罰の捉えられ方が著しく変化していき、教育的価値のある行為とされていたが、近年では暴力として捉えられるようになり、体罰の言説が大きく変化してきたことが明らかになった。

アーティストによるSNS利用――BTSが世界で認められるようになった理由

 2017年のBillboard Music Awards「トップ・ソーシャル・アーティスト」の部門を受賞したのは韓国の7人の少年たち、BTS(防弾少年団)だった。なぜ、韓国のアイドルがビルボードを受賞するに至ったのか、トップ・ソーシャル・アーティストとして、BTSはどのようにSNSを活用したのだろうか。本稿では、BTSが世界で認められるようになった理由を、SNS利用に着目して調査、考察していく。BTSとその他の韓国のアイドルのYouTubeアカウントを調査対象とし、比較する。
 調査の結果、BTSには他のK-POPグループにはないYouTubeの活用方法があることが明らかとなった。場所を問わず、メンバー自身によって撮影され、編集を施さずに配信されている動画や、メンバーが撮影から編集を一貫して行い、それを配信している動画などである。BTSのSNSの利用法は、よりファンと密にコミュニケーションを取ろうとする姿勢が表れていた。彼らの人気の理由は、ビジュアルやダンスなど、他の要素があるのは確かだ。だが、それだけではない、彼らのファンに対する気持ちがSNSを通して伝わったことで、世界のBTSにまでなったのではないかと考えられる。

スポーツの女性ファン――駅女の駅伝競走の楽しみかた

 スポーツの女性ファンはどのような存在であるのか。今日、野球では広島東洋カープの女性ファンが「カープ女子」、サッカーでは横浜F・マリノスの女性ファンが「マリジェンヌ」と呼ばれ、女性ファンに向けたイベントの開催や、サービスの提供が行われ、スポーツの女性ファンが注目を集めている。「駅女」は駅伝競走の熱狂的な女性ファンであり、比較的新しい存在である。駅女はどのように駅伝競走を楽しんでいるのであろうか。
 本稿では、第94回東京箱根間往復大学駅伝競走が開催された2018年1月2日から1月3日の2日間に駅女がTwitterでツイートした内容から、駅女の行動調査を実施した。その結果、駅女は、駅伝競走というスポーツそのものを楽しむだけでなく、選手の容姿や言動に注目したり、駅女同士でのコミュニケーションを取ったりと、自分の好きなように、そして自由に駅伝競走を楽しんでいることがわかった。楽しみかたには、それぞれの駅伝競走への思い、選手やチームに対しての思いが、個性やこだわりとして現れていた。駅女は、自分の好む駅伝競走の楽しみかたを実践することで、自ら、駅伝競走の魅力を生み出しているのである。今後は、駅女の存在が駅伝競走の盛り上がりに重要な役割を担うことになるだろう。

ゲームにおける動機付けの方法――ドラゴンクエストを使って

 やる気を上げるためにはどうしたらいいのだろうか。最近では「やる気スイッチ」という言葉がでてきたように、様々な場面で動機付けの方法が注目されている。果たしてゲームではど うだろう。ロールプレイングゲームとして世界的に有名なドラゴンクエストシリーズでは、ど のようにプレイヤーを動機付けているのだろうか。
 本稿では、ゲーム『ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君』のPlayStation2版 (2004 年)と Nintendo 3DS 版(2015 年)の2つを比較し、動機付けに関係する要素を抽出し た。製作者側が意図しない部分でプレイヤーの動機付けを低めているものも見られたが、ゲー ムを続けるための動機付けの向上につながる変化を数多く発見できた。ゲームにおける動機付 けはゲームだけに止まらず、今後私たちが生活していく中で自分自身への動機付けや、他人を やる気にさせるための動機付けとして役立つものであると考える。

アメリカ映画でみるフェミニズム――『ラ・ラ・ランド』(2016)が表現する映画の中での男女

 自分の身の周りで男女不平等を感じたことはないだろうか。私は最近だと、就職活動中に「女子だから体力勝負の営業は向いてないよね」、「全国転勤は厳しいかな」など女性だからといった理由で決めつけられ不快に感じた。これは女性だけでなく、男性でも同じような経験があるのではないだろうか。このような男女格差を無くし、男女平等を目指し生まれたのがフェミニズムである。1960年代半ばに起こったフェミニズム運動だが約60年経った2018年現代においてもまだまだ格差が見られる。
 本稿では、男女平等にはまだ立場の格差があると仮定し、大衆文化である映画を使って、その中で男女がどのように描かれているのかを明らかにしていきたい。映画『ラ・ラ・ランド(原題はLa La Land)』(デイミアン・チャゼル監督、2016年)を調査対象にして、内容分析を行っていく。調査方法は主人公ミア(女性)とセバスチャン(男性)のセリフや行動を恋愛、仕事のカテゴリーに分け、男女差があるところを抜き出していく。その結果、まだまだ男女の恋愛、仕事上で立場の格差はなくなってはいなかった。しかしそれは常に男性が上の立場にいるのではなく、女性主体になっている場面もあり1960年代と比べ変化している。

*  

アメリカ映画からみる日本らしさ――『ベイマックス』(2014)が表現する日本を事例に

 日本のイメージは他国からみると偏見を持たれていることが多々ある。国によって考え方や文化、行動の傾向は大きく異なるが、外側からみると日本はどのようなイメージを持たれているのだろうか。
 本稿では、映画はイメージを表現するものとして大きな役割を果たしていると仮定し、映画『ベイマックス』(2014年)の日本らしさを感じさせる表象を小物、景色、キャラクターの設定、キャラクターの言動の4項目に分け、印象的な表象を中心に内容分析を実践した。調査には2015年に発売された『ベイマックス』のブルーレイディスクを用いた。
 その結果、『ベイマックス』では日本人とアメリカ人の表現の違いや、桜や松の木、鯉のぼり、招き猫、提灯など日本のイメージが強くみられるものを印象的に映し出されていることがわかった。そして、アメリカ人の監督が実際に日本を訪れたのにも関わらず、忍者や刀など現在の日本には存在しない日本のステレオタイプなイメージの表象がみられ、そのようなイメージを持っていることも明らかになった。

新しい若者文化としてのヒッチハイク――ヒッチハイカーへのインタビュー調査からみる魅力

 現代においては、直接的な人と人との関わりが希薄になり、技術の発達で便利になりすぎたことにより様々なことが容易に出来るようになった。そんな中であえて時間をかけ、苦労をし、人とのつながりを楽しむヒッチハイクという旅のスタイルは、今の時代だからこそ若者の目に魅力的に映る新しい文化であると言える。
 ところで、時代の変化によって旅行はどのように変化してきているのか、大学生ヒッチハイカーが感じるヒッチハイクの魅力はなにか。
 本稿では、7人の大学生ヒッチハイカーを対象に一対一のインタビュー調査を行なった。事前に用意した28項目の質問を中心に、調査対象者には自由に回答してもらった。
 その結果、ヒッチハイクは海外でのバックパック旅で感じられている魅力を、より気軽に感じることができるものであることがわかった。困難な経験をポジティブに捉え、ハードルの高い逸脱的な行為であることに価値を感じるといった点において、バックパック旅と類似している。さらにそれだけではなく、ヒッチハイクを通して人と出会えるという点もヒッチハイクの魅力的な部分であることがわかった。

現代の若者文化――日本人のファッションとアイデンティティから見るタトゥー

 2018年の日本では、読者モデルのりゅうちぇるが、妻子の名前のタトゥーを両腕に施した写真をInstagramにアップしたことが話題となり、世間や芸能界各所でも賛否両論の声が上がっている。現代日本社会で、タトゥーというモノは、アイデンティティ的な意味で施されているのか、ファッション的な意味で施されているのか。果たして、現代日本社会でタトゥーを施している若者はどのような意味を持って施しているのだろうか。
 本稿では、タトゥーを施している20代の若者7人にタトゥーに関するインタビュー調査をし、タトゥーを施している人にしかわからない実情を聞き出した。その結果、タトゥーというのは、自分の人生のアイデンティティ的な要素を、よりファッショナブルに表現したものである。また、現代日本社会が懸念しているほど、タトゥーを施している若者は共生社会を望んでいないということがわかった。

変容するオリエンタリズム――『ジャングル・ブック』1967年と2016年の比較(優秀賞)

 映画という娯楽は社会問題をどのように映し出すのか。普段、観ている映画にも差別や偏見が映り込んでいる。日本人は西洋人の肌の白さや、ブロンドヘアーに憧れを抱く半面、怖いというイメージもあるように、西洋人も東洋や東洋人に対して抱いているイメージがある。それらのイメージは、決して良いものばかりではない。
 本稿では、映画『ジャングル・ブック』(ライザーマン, 1967年)と実写とCGでリメイクされた映画『ジャングル・ブック』(ファヴロー, 2016年)に登場する主人公のモウグリと周りの動物たちの言動を比較する内容分析を行った。調査には両作品ともウォルト・ディズニー・ジャパンから発売されたブルーレイを使用した。1967年版を収録し、2014年に発売された『ジャングル・ブック』と2016年に発売された『ジャングル・ブック』である。結果、1967年版では、モウグリはジャングルに馴染めず人間の女の子に興味を惹かれ人間の村に帰っていく。だが、2016年版では東洋人のモウグリはジャングルという西洋で東洋人として新しい立場を確立することに成功していた。人種差別や問題が起こっている現代だが、映画の世界では少しずつその差別は減少していると考えられる。

1期生(2017年度卒業生)

日本のハワイ旅行のイメージ――1960年代以降の変化

 なぜ私たちは癒しを求めにハワイに行くのだろうか。ハワイは定番の観光地として毎年多くの日本人が訪れている。それはいつから、どのように癒しのイメージができたのか。そして私たちがハワイに求めるものは変わっているのだろうか。
 本稿では、ガイドブック『マップルマガジン まっぷる ホノルル2015』(2014年) と『マップルマガジン ハワイ マップル`97』(1996年)で、求められるものを内容分析し、「癒し」というワードの出現頻度の調査を実施した。その結果、2015 年版で「癒し」というワードが極端に増え、スパ・ヨガで癒しを求めることは近年から始まったと明らかになった。そして、「本物のハワイ」を通して癒しに繋がるとわかった。学校・仕事等の疲れを忘れ、リフレッシュ・癒しを求めるようになったと推測できる。 現代人にとっては、「癒し」を求めるのにハワイは最適な場所の一つつと考えられる。今後も、より「本物のハワイ」を求める人は増加するだろう。


映画の中の新しい「よそ者」イメージ ――『くまのパディントン』(1967)と『パディントン』(2014)の比較研究

 「よそ者」と聞いて何を想像するのだろう。多くの人が国境を超えてやってきた人々を想像するのではないだろうか。近年、身近な問題になっている移⺠問題は、私たちに影響を与え、メディアにおいてどのように描かれているのだろうか。
 本稿では児童文学『くまのパディントン』(ボンド, 1967)と実写映画化された『パディントン』(キング, 2014)の主人公パディントンとブラウン一家のキャラクター設定と作中での行動を比較する内容分析を実施した。調査には、1967 年に初刊行された『くまのパディントン』と 2016 年に発売された『パディントン』の DVD を用いた。その結果、それぞれの作品でのパデ ィントンのキャラクター設定や作中での行動は一貫性があり、変化はみられなかった。一方で、ブラウン一家の描かれ方に変化がみられた。時代の変化により、よそ者に対する現在の人々の気持ちを反映した姿を含めた家族の描き方になっていると明らかになった。主人公では なく、周囲の人々に変化を与えることで、新しいよそ者イメージを作っている。

世界遺産における日本の多文化化――「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」とカナダの事例との比較

 世界遺産において、日本は「多文化」「多様性」を意識しているのか。多文化主義宣言をしたカナダを始めとして、現在、世界的に「文化」の多様性が重要視されつつある。
 本稿では、2018 年に世界遺産登録予定の「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に焦点を当て、カナダの世界遺産「ケベック旧市街の歴史地区」と比較する内容分析を実施した。また、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」については、現地調査も行なった。「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の登録延期勧告後、潜伏キリシタンの文化的伝統が表出する遺産へと変化した。これまでキリスト教の禁教によって自文化のみを自明としてきたが、変更後の遺産の特徴から、多文化を意識する日本の姿勢が見られた。日本は「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」を出発点として、より多文化や多様性を意識した遺産を生み出すべきである。それは、日本社会の「多様性に対する重要性の認知」にも通じていくだろう。

今に通ずる女性の強さ――異色の存在、モダンガールとは

 モダンガールの断髪・洋装ファッションは現代人が見てもおしゃれだと感じる。だが当時世間からは多くの批判を浴びた。批判に負けずとも、自由に自分らしく生き抜いたモダンガールの強さは、女性の社会進出が進む現代に通ずるものがあるのではないか。
 本稿では『朝日新聞記事データベース 聞蔵II』を用い、その中の朝日新聞でモダンガールが出現した大正末期から昭和初期に時代を絞り、モダンガールが世間からどのように思われていたのか当時の記事を調査した。
 その結果、世間がモダンガールに抱いたイメージが非常に悪い事が分かり、時代によりモダンガールに対して抱くイメージが変化していた。しかし批判を受けながらも男性に負けず、仕事にファッションに恋愛に自由に楽しんでいた。
 自分の意思を大切にし、世間の批判や男性に負けずとも自分らしく生き抜いたモダンガールの強さは、現代の女性の憧れとなり女性の社会進出が進む現代に影響を与えていると考える。自分らしさを大切に生きる事を教えてくれているのではないだろうか。

ディズニー映画の女性像の変化――『ズートピア』(2016)とディズニー・プリンセスの比較研究

 「ディズニー・プリンセス」と聞いてあなたはどういう女性を想像するだろうか。ディズニー映画では女性が主人公となる物語が多くあり、その中でも代表的なものがプリンセス・ストーリーである。プリンセスは女の子の憧れの存在として今なお絶大な人気を誇っている。ディズニー映画の女性像は時代を経てどのように移り変わっているのだろうか。
 本稿ではディズニー映画『ズートピア』(2016)に登場するヒロイン「ジュディ」と『塔の上のラプンツェル』(2010)のヒロイン「ラプンツェル」の作中での行動を比較する内容分析を実施した。その結果、ラプンツェルとジュディには性格や行動に多くの共通点が見られたが、より行動的かつ芯の強い女性に変化していっていることが明らかとなった。憧れの女性像は人によって異なる。しかし時代に応じてより積極的な女性が描かれることで、多くの女性たちに影響を与え、身分や境遇という殻を破り夢 への一歩を踏み出す勇気や行動力を後押ししてくれる力をもっていると考えられる。

聖地巡礼による地方活性化の可能性――『聲の形』(2016)と大垣市を事例に

 アニメやドラマを観た人々が実際にその土地を訪れる「聖地巡礼」は、近年、地方活性の手段としても注目されている。では、実際アニメによる「聖地巡礼」は地方の町の活性化の手段として有効なのか。
 本稿では、岐阜県大垣市を舞台に製作された映画『聲の形』(2016)を題材に大垣市や地域住民の取り組みとそれに対するファンの反応を分析した。調査では、観光協会の担当者へのインタビュー調査と実際に現地を訪れるフィールド調査、twitter のコメント分析を行った。その結果、継続した取り組みが観光客誘致に効果的に働いていることが分かった。一方で、より効果的な活動にしていくためには、自治体と地域住民がより密接に関わり合い協力し合って取り組むことが課題として挙げられることがわかった。

女子プロレスラーの身体装飾――紫雷イオを事例にして

 男子プロレスを中心にプロレスブームだといわれている昨今、本稿では、女子プロレス界を代表するプロレスラーの一人紫雷イオ選手に焦点を当て、身体装飾に着目し研究を進め、特に DVD や雑誌から、彼女の身体装飾についての考え、変化に着目した。
 その結果、彼女はある出来事をきっかけにして、彼女自身がコスチュームに対し、挑戦的な意思を持って試合に臨んでいたことがわかった。彼女の所属している団体の業界最大手である『スターダム』がビジュアル系のプロレス ラーの豊富さを売りにしていることや、雑誌の企画でビジュアル面とセクシーさを強調した写真集がシリーズ化され何冊も出版されている。
 これらのことから女子プロレスが最盛期だった頃に比べ、よりビジュアル面や若さを武器にするプロレスラーが増加してはいるが、彼女自身ははじめから女性らしさを生かしたプロレスラーではなく、成長していく過程で女性らしさを生かした身体装飾に挑戦してい た。

現代ラジオリスナーの楽しみ方――深夜番組を事例として

 映像主体となった現代メディアにおいて、音声主体であるラジオには古臭いイメージがある。そんな現代でもラジオを聴いている人は存在している。そこには、現代ラジオリスナーなりの楽しみ方があるのだろうか。
 本稿では、2017 年 8 月 4 日金曜日深夜 27:00~29:00 にニッポン放送で放送した『三四郎のオールナイトニッポン0 (ZERO)』の放送内で紹介したお便りとTwitter 上で番組ハッシュタグ「#三四郎 ann0」を付けたツイートの内容分析を実施した。その結果、(1)メール・Twitter を利用し積極的なコミュニケーションを図ること、(2)さまざまな方法でラジオを聴くこと、以上の 2 つの楽しみ方があった。現代ラジオリスナーはラジオを楽しむために SNS は必要不可欠な存在であり、それによって、従来のラジオリスナーではできなかったことを可能とした。今後、多種多様なSNSを活用す れば、新たな楽しみ方の発見とリスナーがより番組に参加しやすい環境になること、さらには、リスナー同士のコミュニケーションがより積極的に見られることが期待できる。

なぜ日本の若者は海外旅行に行くのか――大学生を対象とした調査からみる海外旅行の魅力と価値

 なぜ日本の若者は海外旅行に行くのか。誰しも海外旅行に一度は憧れたことがあるだろう。しかし、現在、若者の海外旅行は減少傾向にある。かつてはバックパッカーやひとり旅など、海外旅行は特に若者のトレンドとして広く知られていたのだが、現在、減少傾向にあるのはどのような理由からだろうか。そこで、本稿では、海外旅行に興味関心がある若者の視点に立って調査をし、海外旅行の魅力や行く意義などを改めて考察し明らかにして行く。
 調査方法は、スノーボールサンプリングを用いて集めた大学生8名に協力を依頼し、一対一のインタビュー方式で質問に対して自由に回答してもらう。調査の結果から、現代の若者が海外旅行に行く目的として、単なる観光や癒しだけではなく、行くこと自体に人生において意味のあるものであると考えていることがわかった。新しくて慣れない環境に身を置き、より多くの経験をし、自分の世界を広げることで、自己の成長につなげる、そのために海外旅行に行くのではないかと考える。

「ジブリ飯」はなぜおいしそうに見えるのか――拡張現実の視点から見る『天空の城ラピュタ』(1986)の「ラピュタパン」

 映画やアニメ、漫画などに登場する料理は、なぜおいしそうに見えるのだろうか。今、映画などに登場する料理を再現して作る現象が注目されており、ネット上にレシピを公開したり、再現料理をメニューとして客に提供するカフェが存在している。中でも多くの人に注目されているジブリ作品の中に登場する料理、「ジブリ飯」がおいしそうに見えるのはなぜだろうか。
 本稿では、映画『天空の城ラピュタ』(1986)の目玉焼きのせパン、通称「ラピュタパン」が登場するシーンとその付近のシーンにおける、登場人物の表情や行動に注目し、内容分析を実施した。その結果、ファンは作中の印象的なシーンや登場人物の表情を思い出し、それらを「ラピュタパン」に重ね合わせているため、「ラピュタパン」がただの目玉焼きのせパンよりおいしそうに見えていることが明らかになった。ジブリ作品の中での食事シーンは、ファンにとって特別魅力的なシーンであり、その料理を再現して作るという現象さえ生んでいる。映画やアニメの料理を再現するという行為は、新しい映画の楽しみ方として今後も親しまれていくと考えられる。

ハリー・ポッターに学ぶ英雄としての生き方――原作小説の物語論研究

 ファンタジー小説ハリー・ポッターシリーズは世界 67 カ国語に訳されている。原作小説が出版されてから約 20 年たった今でも世界中で愛され続ける理由は何なのだろう。それは、物語の英雄ハリーに対して読者が憧れや共感を抱いているからではないだろうか。では、全 7 作品中シリーズ 1 作目の『ハリー・ポッターと賢者の石』でハリ ー・ポッターは英雄としてどのような役割を果たしているのか。
 本稿では、物語を 31 の機能に分けたウラジーミル・プロップの物語論とジョセフ・ キャンベルの英雄神話の基本構造に『ハリー・ポッターと賢者の石』をあてはめ、比較分析した。その結果、プロップ、キャンベルが示した構造どちらにも、あてはまるストーリーもあったが、あてはまらないストーリーのほうが多かった。ハリー・ポッ ターの物語には数多くある英雄物語には見られる特徴が少ない。それまでの似通った英雄像に飽きてきた人達が、ハリーを新たな英雄として支持しているのではないかと考えられる。

K-POPが日本の若者に与える影響――TWICEと防弾少年団のインターネット活用の調査結果から

 2017年12月31日、第68回紅白歌合戦にTWICEという韓国9人組ガールズグループが出場した。韓国グループが出場するのは2011年以来、6年ぶりのことである。現在、K-POPがメディアに多く取り上げられている。K-POPの中でも日本での知名度が高く、日本人ファンが多い韓国グループと言われているのがTWICEと防弾少年団である。なぜ、TWICEと防弾少年団は日本のファンに受け入れられているのだろうか。また、K-POPアーティストは日本のファンへどのように働きかけているのだろうか。
 本稿では、TWICEと防弾少年団を取り上げ、それぞれのグループにおけるYouTubeやTwitterの活用の仕方とそれに対するファンの反応について内容分析を実施した。その結果、K-POPアーティストはインターネット活用の中で様々な工夫がみられ、日本のファンは色々な形でK-POPアーティストの活躍に期待や応援をしていることが分かった。これからも、K-POPはインターネットを通じて日本に大きな影響を与えるだろう。